タコの複雑な脳、DNAの「折りたたみ方」が手がかりに
コレオイド頭足類(コレオイドとうそくるい)
タコ、イカ、コウイカを含む頭足類のグループ。
染色質ループ(せんしょくしつループ)
DNAの離れた部分を近づける細かな接触。
遺伝子発現(いでんしはつげん)
遺伝子の情報が細胞で使われること。
何が起きたか
タコ、イカ、コウイカを含むコレオイド頭足類では、問題を解いたり、体の色をすばやく変えたりする複雑な行動が進化しています。ウィーン大学の研究チームは、その背景を遺伝子の「文字」だけでなく、DNAの立体的な配置から調べました。研究は2026年10月、学術誌Nature Communicationsに掲載されました。
背景:DNAは平らな文章ではない
DNAは長い配列ですが、細胞の中では折りたたまれています。折り方によって、離れたDNAの部分が近づき、遺伝子の働きを調節できます。ここでいう「近づく」は、DNAの文字が新しく書き換わるという意味ではありません。細胞がどの遺伝子を使いやすくするかが変わる、という意味です。
頭足類の祖先では、大きな染色体の組み替えが起きました。その後も、染色体の融合や移動、DNAの増加が系統ごとに進みました。研究チームは、こうした古い変化が、現在のDNAの折り方に残っているのかを調べました。
どう調べたか
チームは、タコ、コウイカ、イカの仲間を比べました。成長の段階や体の組織も分けて調査しました。DNA同士の近さを記録するMicro-C、遺伝子発現を測るRNAシーケンス、細胞が使いやすいDNA領域を調べるATACシーケンスを組み合わせています。つまり、DNAの形、遺伝子の活動、読み出されやすさを同じ研究で見たことがポイントです。
確認できたこと
DNAの大きなまとまりは、種をまたいでおおむね保たれていました。一方、染色質ループと呼ばれる細かな接触は、種、組織、成長段階によって大きく変わりました。これらのループの一部は、神経の発達に関わる遺伝子の近くにありました。保存されていたループ内の調節領域を遺伝子編集で壊す実験では、イカの近縁種で神経の発達に関わる変化が見られました。ループが単なる形ではなく、遺伝子の使われ方に関わる可能性を示す結果です。
研究チームは、こうした状態を「調節のもつれ」と表現しました。これはDNAが物理的な糸玉になるという意味ではありません。大規模な組み替えで遠かった部分が同じ染色体上に来ると、新しい調節のつながりが生まれ、時間をかけて残ることがある、という考え方です。大きな構造が安定性を保ち、細かなループが変化を生む。その両方が、進化の余地を作ると見られます。
なぜ重要か
進化を考えるときは、遺伝子の配列が変わったかどうかに目が向きがちです。今回の研究は、同じ遺伝子でも、DNAの折り方や近くにいる調節領域が変われば、働き方が変わりうることを示しました。頭足類の複雑な神経系を理解するうえで、遺伝子の数だけでなく、ゲノムの空間的な設計を見る必要があるということです。
まだ分からないことと次に見る点
この研究だけで、DNAの折り方が複雑な脳を直接生み出したとは言えません。どのループがどの遺伝子を通じて、どの行動や器官に影響するのかは、まだ一つずつ確かめる段階です。今後は、より多くの頭足類、組織、成長段階を比べ、候補となる調節領域を直接検証する必要があります。DNAの立体構造と、神経の働きや行動がどう結びつくのかが次の焦点です。
タコの脳の複雑さ、DNAの折り方が関係?
📰 しっかり版: タコの複雑な脳、DNAの「折りたたみ方」が手がかりに
DNAの立体的な形が、神経の育ち方に関係するかもしれません。
3Dゲノム(スリーディーゲノム)
DNAが細胞の中で立体的に折りたたまれた状態。
染色質ループ(せんしょくしつループ)
DNAの離れた部分を近づける小さな輪のようなつながり。
調節領域(ちょうせつりょういき)
遺伝子を使う量や時期に関わるDNAの部分。
💡 ようするに
- タコやイカのDNAの折り方を調べた。
- 折り方で、遺伝子の働き方が変わる。
- その仕組みは、神経の進化に関係しそうだ。
ウィーン大学(研究をした大学)のチームが調べました。研究は、学術誌Nature Communicationsに発表されました。
タコやイカの仲間は、複雑な神経の仕組みを持ちます。DNAは、体を作る情報です。遺伝子は、その情報の小さな部分です。
DNAは、細胞の中で折りたたまれています。折り方が変わると、近くになる部分も変わります。すると、遺伝子の働き方が変わることがあります。
研究チームは、この立体的な仕組みを3Dゲノムとして調べました。大きなDNAのまとまりは、動物の種類が変わっても似ていました。小さな染色質ループは、種類や体の場所で変わりました。成長の段階でも違いが出ました。
神経に関わる遺伝子の近くには、こうしたループがありました。研究者は、ループの中の調節領域を変える実験もしました。すると、イカの近い仲間で神経の育ち方に関わる変化が出ました。
ただし、DNAの折り方だけでタコの複雑な脳ができたとは、まだ言えません。どのつながりが、どの体の働きに関係するのかは、これからの課題です。
タコの頭とDNAの折り方のふしぎ
📰 しっかり版: タコの複雑な脳、DNAの「折りたたみ方」が手がかりに
DNAの折り方が、神経の育ち方に関係するかもしれません。
DNA(ディーエヌエー)
体を作る指示が入っているもの。
神経(しんけい)
体で感じたり動いたりする仕組み。
タコやイカの体には、DNAがあります。
DNAには、体が働くための指示があります。
DNAは、細胞の中で折りたたまれています。
遠くにある部分が、近くになることがあります。
すると、細胞が使う指示が変わることがあります。
ウィーン大学(研究をした大学)が調べました。
タコやイカの仲間を比べました。
神経の近くに、特別なつながりがありました。
そのつながりの一部を変えました。
イカの近い仲間で、神経の育ち方に関わる変化が出ました。
でも、これだけが理由とはまだ言えません。